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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)75号 判決

原告 駒沢電熱株式会社 外一名

被告 品川税務署長

訴訟代理人 小川英長 外三名

主文

原告市川又次郎の訴えを却下する。

原告駒沢電熱株式会社の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

(原告ら)

「被告が原告駒沢電熱株式会社の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇年三一日までの事業年度分法人税につき、昭和四〇年六月二六日付をもつて課税標準を四五四万二、九八九円、法人税額を一五一万四、二六〇円としてした更正処分ならびに過少申告加算税を三万九、三五〇円としてした賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

(被告)

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた

第二原告らの主張

(請求の原因)

一、原告駒沢電熱株式会社(以下、原告会社ともいう。)は、昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度分の法人税について同年一二月二四日成立の決算に基づき同月三〇日付青色申告をもつて課税標準を二三八万三、九六九円、税額を七二万六、六八〇円として確定申告をした。

ところが、被告は原告会社の右法人税について昭和四〇年六月二六日付をもつて課税標準を四五四万二、九八九円、税額を一五一万四、二六〇円とする旨の更正処分および過少申告加算税三万九、三五〇円を賦課決定する旨の処分をし、その通知書をかつて同原告の清算人であつた原告市川又次郎に送達した。

原告会社は同年七月二三日付をもつて被告に対し異議の申立てをし、同年一〇月二二日付をもつて右申立てを棄却されたので、同年一一月一八日付をもつて東京国税局長に対し審査請求をしたが、同局長から昭和四二年一二月二七日付をもつて右請求を棄却する旨の裁決をされ、昭和四三年一月二六日原告市川又次郎において右裁決書謄本を受領した。

二、しかしながら、右更正処分および加算税賦課決定処分には次のような瑕疵がある、

(一) 原告会社は昭和三九年一〇月三一日東洋電熱株式会社(以下東洋電熱ともいう)に対し資産、負債の一切を含む営業を譲渡し、昭和四〇年一月三一日開催の臨時株式総会における決議によつて解散し、原告市川において清算人に就任のうえ清算事務に従事し同年三月三一日右事務を終了し、同日付をもつて清算結了の登記を経由し、これにより、原告会社は法律上消滅するに至つた。

したがつて、右更正および加算税賦課決定の各処分の通知書の送達は右登記の後既に存在しない原告会社に宛ててなされたものであるから、その効力を生ずるに由がない。ただ、右各処分は外形上一応存在し、これを前提として後続処分をうけるおそれがあるので、その取消しを受ける必要がある。

(二) 仮に、右通知書が有効に送達されたとしても、原告会社は東洋電熱に対し九三二万三、六七二円(平常の決算同様、資産、負債の金額を帳簿価額によつて計算した当初決算を基礎とした金額)相当の純資産を代金六〇〇万円で譲渡したため三三二万三、六七二円の営業譲渡損失を生じた。もつとも、所得金額は右更正処分が認定したように二一五万九、〇二〇円ほど増加すべき筋合であるが、その反面営業譲渡損も同額だけ増加して結局五四八万二、六九二円となり、いずれにしても、課税さるべき所得金額はなかつたのに、原告会社は右営業譲渡に伴う決算の作成を誤つた結果、前記のような確定申告をしたものである。

したがつて、右のような経理の実情を看過してなされた右更正処分は違法である。

なお、原告会社は前記確定申告の後、税務当局の指示により、営業の譲渡に伴う場合として資産・負債を時価によつて計算して決算を修正した結果、資産勘定において四六八万一、六七〇円、負債勘定において一三五万円各減少し、欠損金が一三七万三、〇四一円となつた(当初決算における欠損金は一九五万八、六二九円であつた。)ので、昭和四〇年一月三一日開催の臨時株主総会において右修正決算の承認を得たが、右修正決算に右営業譲渡損失を加算減算したものが右事業年度期末の真正な決算となるべきものである(第一次の決算は右事業年度中の東洋電熱に営業を譲渡する以前における事業成績の試算にすぎない。)。

また、原告会社の右営業譲渡はあらかじめ株主全員の合意によつて決定され、これにしたがつて昭和三九年一〇月三一日雇傭関係の引き継ぎを含め一切の履行が終つたから、遅くとも右同日には効力を生じたものであつて、これに伴う損失は前記事業年度の決算に当然関係する。もつとも、右営業譲渡の特別決議は同年一二月二四日開催の株主総会において得られたが、それは商法二四五条所定の手続要件を整えただけであつて、これによりその効力発生の時期が画されるものではない。仮に、そうではなく右特別決議が、効力発生要件であるとしても、それは右営業譲渡のうち、純然たる営業の譲渡に当る部分に限られ、積極財産の譲渡、債務の引受および雇傭契約上の債権債務の承継等の部分には及ばない。

仮に、右営業譲渡が次年度において効力を生じたものとしても、どのみち、その事業年度には右営業譲渡によつて同額の損失が生じたのであるから、課税の公平の見地から、右損失をその前年度にくりもどして税務処理することが認容さるべきであつた、また、前記修正決算における欠損金は一三七万三、〇四一円であつたから、これを前記更正処分が認定した増加所得金額二一五万九、〇二〇円から差引いた残額たる七八万五九七〇円が右処分の対象たる事業年度における利益額であつて、原告会社の前記確定申告にかかる課税標準二三八万三、九六九円よりも一五九万七、九九九円ほど少ないが、被告はこれを無視し右更正処分をした点で違法たるを免れない。

三、なお、原告市川は右更正処分の取消しにより税金の還付を受けることを希求しながら、一応右更正処分による税額一五一万四、二六〇円および過少申告加算税三万、九三五〇円の合計額から確定申告による税額七二万六、六八〇円を差し引いた八二万六、九三〇円を納付したものであるから、右納税によつて右更正処分の取消しを求める訴えの利益を失うものではない。

(抗弁に対する答弁)

被告主張事実中、右更正処分が認定した増加所得金額が存在すべきことは認める。

第三被告の主張

(請求原因に対する答弁)

一、原告ら主張一、の事実は認める。

同二の(一)の事実中、原告会社が東洋電熱に営業譲渡をしたことは認める。もつとも、右営業譲渡の効力が生じたのは昭和三九年一二月二四日であつて、原告ら主張のように同年一〇月三一日ではない。原告会社の清算が結了したこと、原告ら主張の更正および加算税賦課決定の各処分の通知書の送達が無効であることはいずれも争う。

同二の(二)の事実中、原告会社の確定申告が原告ら主張のような誤りに基づくことは否認する。原告会社が東洋電熱に対する営業譲渡によつて損失を生じたことは争う。

二、その余の点について

(一) 前計営業譲渡は商法三四三条により株主総会の特別決議が行なわれた昭和三九年一二月二四日その効力を生じたものであるから、これによる損失は右株主総会開催の日の属する事業年度の計算に帰すべきものである。

なお、原告会社が右営業譲渡により東洋電熱に雇傭および対外取引による契約関係を引継いだのは早くて昭和四〇年三月頃である。

また、右営業譲渡は商法二四五条一項一号にいう営業譲渡であつて、原告ら主張のようにこれによつて変動すべき個々の法律関係の差により、その効力発生の要件を異にすべきいわれはない。

(二) 原告会社の決算修正が税務当局の指示によつたことは否認する。なお、右営業譲渡は法人税法施行規則(昭和四〇年三月三一日政令第九七号による改正前のもの-以下同じ。)一七条二、三項が固定資産の評価損を損金に算入できる場合として定めた例外的場合には該当しない。

(三) 旧法人税法(昭和四〇年三月三一日法律第三四号による改正前のもの-以下同じ。)二六条の四、一項は前記の所得に対する法人税額と当期の所得につきこれを超える損金の額の全部または一部を控除して計算した法人税額との差額の還付請求を認める制度を設けているが、これによる還付金額は前記の確定した税額により算出される仕組であつて、前期の確定した課税標準を後期の損益によるくりもどしによつて左右することまで認めるものではない。

(抗弁-課税の根拠)

一  原告ら主張の法人税確定申告には

イ 売掛金の計上漏 八八万五〇〇円

ロ 買掛金の否認すべきもの 四一万三、五二〇円

ハ 損金に計上されたが益金に計上すべき役員賞与 六四万円 ニ 交際費の否認すべきもの 二二万五、〇〇〇円

以上合計二一五万九、〇二〇円が存し、これを増加所得金額として右確定申告における所得金額に加えると、その課税標準は四五四万二、九八九円となるから、これを基礎としてなした本件更正等の各処分は適法である。

第四証拠関係〈省略〉

理由

一  原告会社が昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度分の法人税について同年一二月二四日成立の決算に基づき同月三〇日付青色申告をもつて課税標準を二三八万三、九六九円、税額を七二万六、六八〇円として確定申告をしたこと、被告が原告会社の右法人税について昭和四〇年六月二六日付をもつて課税標準を四五四万二九八九円、税額を一五一万四二六〇円とする旨の更正処分および過少申告加算税三万九三五〇円を賦課決定する旨の処分をしその通知書を原告市川又次郎に送達したこと、原告会社が同年七月二三日付をもつて被告に対し異議申立てをし、同年一〇月二二日付をもつて右申立てを棄却されたので、同年一一月一八日付をもつて東京国税局長に対し審査請求をしたが、同局長から昭和四二年一二月二七日付をもつて右請求を棄却する旨の裁決をされ、昭和四三年一月二六日原告市川において右裁決書の謄本を受領したことは当事者間に争いがない。

ところで、〈証拠省略〉によれば、原告会社は昭和四〇年一月三一日開催の株主総会における決議によつて解散し、原告市川はその清算人に就任したものであること、そして原告会社は同年三月三一日清算結了の登記を経由したことが認められるが、原告会社がなした前記認定の法人税確定申告にして更正処分を受けてもやむを得ないものであつた場合には、原告会社の清算事務はいまだ結了したといい難く、その限りにおいて原告会社は存続すべきものであつて、そのことは清算結了の登記経由の有無によつて左右されるものではない。

したがつて、原告会社が右更正等の各処分の通知書送達当時、その清算結了登記により既に法的に消滅していたか否かは右更正等の各処分の適否にかかるものといわざるを得ない。原告らは右各処分が法的に存在しない原告会社に通知されたとしてその効力を争うが、直ちに左袒し得る主張ではない。

二  そこで、進んで右更正等の各処分の適否について考究する原告会社の前記法人税確定申告に被告主張の増加所得金額二一五万九、〇二〇円が存在すべきこと、右各処分がこれを基礎としてされたことは当事者間に争いがなく、したがつて、右各処分の適否は右確定申告に原告会社の営業譲渡による損益勘定を計上すべきか否かに帰するもののようである。そして、原告会社が昭和三九年一〇月三一日東洋電熱に対し、資産負債の一切を合む営業を譲渡したことは当事者間に争いがなく〈証拠省略〉によれば、原告会社の右営業譲渡は六〇〇万円の代価をもつて行なわれ、同年一二月二四日開催された原告会社の株主総会において株主全員の同意による特別決議を経たことが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、原告会社の営業譲渡は右株総会の特別決議により右確定申告にかかる事業年度経過後に効力を生じたものというべきであるから、右確定申告には右営業譲渡による損益勘定を計上すべきではないものといわざるを得ない。

原告らは右営業譲渡はあらかじめ株主全員の合意によつて決定され、これにしたがつて前記事業年度中たる昭和三九年一〇月三一日一切の履行が終つたから、遅くとも右同日には効力を生じたものである旨を主張するが、右主張は独自の見解に基づくものであつて、採用するに足りない。

なお、原告らは右営業譲渡のうち、積極財産の譲渡、債務の引受および雇傭関係の承継等の効力発生には右特別決議を要しない旨を主張するが、これまた商法二四五条に関する独自の理解に出たものというべく、採用の限りではない。

また、原告らは右営業譲渡により生じた欠損を課税公平の見地からその前年度にくりもどして税務処理することが認められるべきであつた旨を主張するが、右主張のような税務処理を肯定すべき税制上の根拠はない。もつとも、旧法人税法二六条の四は欠損のくりもどしによる納税還付の制度を設けていたが、それは次年度に生じた欠損を前年度の所得金額から控除した残に対する所得税額と前年度の本来の所得税額との差額を納税者に還付して、期間計算主義から生じる徴税の不合理と税負担の不公平を解消しようとしたものであつて、次年度に生じた欠損を前年度の欠損として処理することまで認める趣旨では決してないのである。

以上の次第であるから、右営業譲渡による損益勘定を計上しないでなされた右確定申告につき前記認定の存在すべき増加所得金額を計算の基礎にくみ入れてなされた前記更正等の各処分にはなんらの瑕疵もないというべきであり、したがつて、また右各処分の通知書送達当時、原告会社は清算中であつたとはいえ、いまだ消滅にいたらなかつたものというべきである。

三  なお右更正等の各処分が原告会社に対してなされたものであることは多言を要しないところであるから、原告市川が原告会社の清算人であつたというだけで、右各処分の取消しを訴求する法律上の利益はないものというべきである。

四  よつて、原告市川の本件訴えを不適法として却下し、原告会社の本訴請求を理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

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